金融や不動産、メーカーなど、現在はさまざまな業界でオウンドメディアが活用されており、日々その重要性が高まりつつあります。「そろそろ自社でもオウンドメディアの運用が必要だ」と考えるマーケティング担当者の方も多いでしょう。
にもかかわらず、企画書や提案書の内容が上司にうまく伝わらず、オウンドメディアの立ち上げに頓挫してしまうケースも少なくありません。上司の承認を得るには、少なくとも4つの企画資料を用意する必要があります。本記事では、オウンドメディアの企画作成のポイントをまとめつつ、4つの企画書・提案書の例をご紹介します。
オウンドメディアを運用したい目的を明確に
オウンドメディアの企画書や提案書を作成する前に、まずはメディア運用の目的を定めておきましょう。初めに目的を定めてこそ、その達成に必要なタスクやターゲット、コンテンツなどが明確になります。
オウンドメディアで目的を設定する重要性
店舗への集客やビジネスの業績拡張に苦しんでいる担当者ほど、すぐにでもオウンドメディアを立ち上げて何かしらの改善を成し遂げたいものです。しかし、オウンドメディア立ち上げに先走り、目的を設定せずに運用を開始してしまうケースも珍しくありません。
では、なぜオウンドメディアを運用するうえで目的設定が必要なのかといえば、チームが一丸となりゴールに向かって突き進めるためです。
たとえば、オウンドメディアではよくコンテンツによって潜在層のユーザーを引き寄せ、サイト回遊によってブランドや商品に興味を持った段階で「資料請求」や「ホワイトペーパーダウンロード」といったアプローチを行います。そしてユーザーとのコミュニケーションをとりつつ、徐々に購買意欲を醸成させるのが基本的な流れです。
しかし、あらかじめ目的が設定されていなければ、以下の点が不明瞭なままチームメンバーが作業をしなければなりません。
- コンテンツ発信からサービスの販売までどのような流れで売上につなげるのか
- ユーザーにとって自社のオウンドメディアはどのような役割を果たすのか
- メディア内で創出された見込み客や顧客に対してどのようなアプローチをするのか
このような販売戦略の根幹にかかわる部分があいまいなままでは、コンテンツに付随するオプション(問い合わせや資料請求など)はおろか肝心のコンテンツまで主旨がぶれてしまうでしょう。これではコンテンツ制作チームの混乱を招いてしまうため、一つの目的に向かってメンバーの行動がフォーカスするよう目的設定が必要なのです。
オウンドメディアの目的設定は「SMART」に
目的を設定するために役立つフレームワークとして、「SMART」という考え方が存在します。SMARTとは、以下のすべての要素を含んだ目標設定の指標です。
- Specific:具体的に表現する
- Measurable:測定可能な指標を含める
- Achievable:達成可能で現実的な内容にする
- Related:経営目標に関連した内容にする
- Time-bound:一つの目的を達成するまでの期限を設定する
目的というあいまいなものを闇雲に考えていたのでは時間がいくらあっても足りません。そこで上記5つの指標をじっくりと推敲することで、ポイントを絞り込んだ効率の良い目的設定が可能になります。
オウンドメディアのメリットを理解して企画をしよう
ここまでオウンドメディアにおける目的設定の重要性をお伝えしてきましたが、企画書や提案書を作成する前にメリット面についても理解しておきましょう。メリットを理解することで「オウンドメディアが得意とすること」が分かり、企画や戦略をスムーズに、無理なく考案することができます。
オウンドメディアのメリットについて、以下に5つのポイントを取り上げました。
- ユーザーとのコミュニケーションや関係性を深められる
- 商品やサービスの認知拡大・印象アップなどブランディングにつなげやすい
- 文字・画像・動画・PDFなどを駆使して自由自在に情報を発信できる
- 広告とは違い各コンテンツには資産性があり、長期運用で費用対効果が高まる
- Web広告やSNS、動画配信サービス、求人サイトなど各チャネルとの相性が良い
つまりオウンドメディアとは、潜在層のユーザーや見込み客、あるいは顧客と中長期的な関係を結ぶ最適なチャネルだと言えます。このオウンドメディア独自の強みを理解したうえで、今度は企画書や提案書の作成に取り掛かっていきましょう。
オウンドメディアの企画書・提案書例
オウンドメディアを運用する場合、目的やペルソナの設定、プロジェクトチームのメンバー選定・結成、コンテンツの企画・制作など数多くの業務が発生します。そのため、オウンドメディアの企画書や提案書を作成する際は、こうした数多くの業務に対応できるよう入念に企画を考えておく必要があります。
少なくとも企画段階で以下のような資料を用意しておくと良いでしょう。
- 設計シートの作成
- 編集過程シートの作成
- コンテンツマーケティング用の企画書・提案書を作成
- コンテンツ設計シートの作成
そこで、今回は以下のようなオウンドメディアを作成することを条件とし、企画書・提案書の実例をご紹介します。
【企画書・提案書を作成するうえでの条件(サンプル)】
- メディア名:フリーランス養成塾
- ターゲット:これから副業や本業としてフリーランスで働いてみたい人
- 収益化の手段:自社で提供するレンタルオフィスサービスのメディア露出
設計シートの作成
オウンドメディアの設計シートとは、企業の課題や提供できる価値、ペルソナ、予算などを一目で確認できるようにまとめた資料です。オウンドメディアの企画書のなかでは根幹となります。
あらかじめ「ユーザーのどのような課題を解決できるのか」「企業としての最終地点(ゴール)はどこか」などの要素を明確にしておくことで、コンセプトや目的がぶれることなくオウンドメディアの運用を行えます。
以下はその設計シートの一例です。
解決したい企業の課題 | ・提供するサービスの認知度が高くない ・レンタルオフィスの活用方法を知る人が少ない ・自宅以外で働きたいフリーランスの需要を満たせていない |
オウンドメディアのゴール | ・数多くのフリーランスに自社のレンタルオフィスを利用してもらう ・自社のファンを増やして宣伝効果を高める ・教育コンテンツをセミナー化するなど事業の幅を広げる |
メディアコンセプト | フリーランスが抱える悩みをワンストップで解決 |
コンテンツ方針 | ・フリーランスの疑問を解消する解説記事 ・自社で行うセミナーのレポート ・レンタルオフィス利用者のインタビュー記事 |
コンテンツ流通施策 | ・SEO対策 ・SNS公式アカウントでの発信 ・YouTube公式アカウントとの連動 |
サイト構築方法 | ・CMS:WordPress ・サーバー:レンタル(□□サーバー) ・サイトデザイン:外注(株式会社○○○) ・ベース構築:外注(△△株式会社) |
ターゲット | これから副業や本業としてフリーランスで働いてみたい人 (20代後半・男性・社会人経験5~6年) |
ターゲットの悩み | ・フリーランスとして働いてみたいがハードルが高い、収入が不安定そうなどの不安を抱えている ・副業に対する懸念や退職する際の不安 |
月額予算 | 10万~40万円の範囲で企画内容によって変動 |
編集過程シートの作成
編集過程シートとは、コンテンツの企画・制作からWebへのアップロードまで、どのような流れや人員で作業を行うのかを図式化した資料です。オウンドメディアのコンテンツ制作は過程が複雑に分かれるため、事前に編集過程シートを作っておくほうが後の手続きがスムーズになります。
シートは過程ごとに必要なタスクや人員、おおまかなスケジュールを記入します。以下は編集過程シートの一例です。
プロセス | 必要なタスク | 必要な人員 | スケジュール/1記事 |
1.コンテンツ企画 | ・キーワード分析 ・競合分析 ・ペルソナ設定 | ・ディレクター ・構成担当者 ・Webライター | 1~3日 |
2.構成の作成 | ・キーメッセージ設定 ・タイトル設定 ・見出し設定 ・本文の概要作成 | ・構成担当者 | 2~4日 |
3.構成チェック | ・骨組みの推敲 ・見出しの削除、追加 ・添削と修正依頼 ・アイデアの提供 | ・ディレクター ・編集担当者 | 1~2日 |
4.記事の執筆 | ・見出しに沿って本文執筆 ・導入、まとめ執筆 ・ディスクリプション設定 ・必要な画像の指定 | ・Webライター | 3~5日 |
5.記事チェック | ・本文の推敲 ・添削と修正依頼 ・アイデアの提供 | ・ディレクター ・編集担当者 | 2~3日 |
6.CMSへの入稿 | ・CMSへ記事内容コピー ・見出し等のタグ調整 ・画像や動画の挿入 ・文字装飾 ・SEO設定 | ・編集担当者 ・入稿担当者 ・イラストレーター | 1~2日 |
7.アップロード | ・スケジュール設定 ・効果計測期間の設定 ・インデックスチェック ・検索順位チェック | ・編集担当者 ・入稿担当者 | 1~2日 (計11~21日) |
また、必要な人員が決まればコンテンツ制作チームの準備に取り掛かれるため、この時点でメンバーをどのように用意するのかまで決めておいても良いでしょう。たとえばディレクターや編集担当者は自社スタッフでまかない、構成担当者やWebライターのみ外注するというような構想を立てておきます。
また、事前にチームメンバーの構成を決めておくと、予算にかかわる人件費やコンテンツ制作費を想定しやすい点もメリットです。
コンテンツマーケティング用の企画書・提案書を作成
オウンドメディアの企画書や提案書を作る段階からコンテンツ企画についてもある程度進めておきましょう。事前にコンテンツの企画が必要な理由は、オウンドメディアを構築してから初めてコンテンツの企画を考えてもなかなかアイデアが浮かばなかったり、スケジュールに追われて良い企画の考案ができなかったりするためです。
そこでまずは、コンテンツ全体の概略が分かるコンテンツマーケティング用の企画書・提案書を作成していきます。以下にサンプルの企画書を提示してみましたのでご覧ください。
目的 | メディア効果による認知拡大および来店促進 |
KGI | ユニークユーザー(UU)数:10,000 |
KPI | 月間ページビュー(PV):35,000 セッション数:25,000 検索エンジンCTR:3.0% |
集客戦略 | メインとなるチャネルは検索エンジン(SEO)。同時にSNSによる定期的な情報発信、メディアで紹介した主要なコンテンツの動画配信などで露出機会を増やす。 |
ペルソナ | ・27歳で副業をしたいと考えている男性 ・都内のアパレルメーカー(企画職)に勤務 ・月収24万円、家賃5.5万円のマンションに一人暮らし ・斜陽産業で勤務することに危機感を覚えており、副業をしてIT系の得意分野を見つけたいと考えている ・ゆくゆくは転職あるいは独立も視野に ・未経験の分野でも可能な副業を知りたい ・クラウドソーシングに少し興味があり、フリーランスがどのように働けるのか情報を探している |
コンテンツマーケティングとは、ユーザーの購買プロセスに沿って適切なコンテンツを提供しながら、潜在顧客から見込み客、顧客へと徐々に購買意欲を醸成させていく手法です。検索キーワードをユーザーのニーズに見立てて最適なコンテンツを提供できるオウンドメディアは、コンテンツマーケティングを実施する場として理に適っています。
もちろん購買プロセスの各段階に適したコンテンツを提供するわけなので、最低限その流れは理解しておかなければなりません。その際によく活用されるのが「AISAS」という購買プロセスのフレームワークです。実際にAISASの流れに適切なコンテンツをあてはめてみましょう。
購買プロセス | ユーザーインサイト | 提供できるコンテンツ |
1.Attention(注意) | 縦型とドラム型の洗濯機、どちらが自分に合う? | 洗濯機は縦型とドラム型でどう違うのかを解説する記事 |
2.Interest(関心) | 私にはドラム型が最適!どうやって商品を選べばいい? | ドラム型洗濯機の選び方やランキングを紹介する記事 |
3.Search(検索) | 気になるドラム型洗濯機が複数……。一目で違いを確認したい | 複数のドラム型洗濯機を一目で比較検討できる記事 |
4.Action(購買) | この洗濯機に決めた!でも、価格以上の価値があるかな? | 自社のドラム型洗濯機の口コミ・評判を紹介する記事 |
5.Share(情報共有) | 購入して良かった!ほかの人にもこの洗濯機を勧めたい | 顧客アンケートによる口コミ回収など |
コンテンツ設計シートの作成
コンテンツマーケティング用の企画書・提案書で概略が分かるようになったら、今度はコンテンツ設計シートを作成しましょう。企画書のコンセプトやペルソナを基に、一つひとつの検索キーワードやコンテンツの詳細を考えていきます。
ユーザーインサイト | 検索キーワード | 記事のテーマ |
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オウンドメディアを構築する前の段階では、検索キーワードや記事のテーマだけ決まれば十分です。少なくとも10~20個ほど用意しておくとメディア構築後のコンテンツ制作がスムーズに進行できます。実際にメディアとしての形が整った後、事前に設定したテーマから構成や記事を作成していきましょう。