動画で採用マーケティングを行う方法といえばYouTubeを活用するのが一般的だったものの、最近ではTikTokで人材採用や求人を行う企業も増えています。TikTokではZ世代やミレニアル世代の若者をターゲットにできること、バズによる情報拡散を狙えることなどが、近年TikTokが注目されている主な理由です。
ただし、TikTokはYouTubeやニコニコ動画とは違う独特の文化を築いていることから、TikTok独自の採用動画を制作するポイントや動画コンテンツの運用方法を理解しておかねばなりません。
本記事では、企業の人材採用にTikTokが効果的な理由や採用マーケティングの方法などを解説します。
TikTokで求職者へリーチする仕組み
TikTokを活用することで、人材採用を行う企業は自ら能動的に求職者へリーチできます。
これまでの採用活動はWebサイトの採用ページや求人サイトなど受動的な施策が多かった一方、企業から積極的に求職者にアプローチをかけることで、知名度に欠ける企業でも多数のエントリー獲得のチャンスが生まれます。
では、TikTokではどのように求職者にリーチが可能なのか、その仕組みを探っていきましょう。
ユーザーが能動的にコンテンツに触れるレコメンドシステム
TikTokにおいて企業にもっともメリットのある機能は、独自の「レコメンドシステム」だと言われます。レコメンドシステムとは、アプリ内のおすすめフィードにて、画面をスワイプする度に次々とおすすめ動画が表示される仕組みです。
新しく投稿された動画は基本的に複数のユーザーのおすすめフィードに表示されます。そして、ユーザーがその動画をエンゲージメント(いいねや共有、フォローなど)すると、AIがそのユーザーの興味関心を分析して、同じ嗜好を持つ別のユーザーのおすすめフィードに動画を表示させる仕組みです。
つまり、似たような好みを持つ多数のユーザーへ、自社の動画が拡散されることを表します。この仕組みを活用すれば、新しくアカウントを開設したばかりでも多数のフォロワーやいいねを獲得出来やすいでしょう。
お気に入りの動画は別のSNSでも拡散が期待できる
ユーザーが気に入った動画に対し、画面をワンタップするだけで気軽に友達と情報を共有できるのもTikTokの魅力です。共有ボタンを押すと、TwitterやInstagram、LINEなどのSNSにお気に入り動画を添付できます。
この共有機能の大きな利点は、情報が拡散されるほど同じ嗜好を持ったユーザーにアプローチできる点にあります。
たとえば、TikTokにダンスの動画を投稿したとしましょう。ダンス分野に興味のあるAさんがその動画をTwitterで共有した場合、Aさんのタイムラインをよく見る友人BさんやCさんの目にもその動画が触れることになります。
ダンスに興味があるAさんの友人だからこそ、BさんやCさんも同じダンスに興味を抱く可能性は高いと言えます。するとBさんやCさんもその動画に興味を持ち、リツイートされることでどんどん動画が拡散されるようになるでしょう。
これはバイラル(口コミ拡散)マーケティングの最たる手法で、広告に費用をかけずとも大々的に自社の存在をアピールできます。しかもSNSのフォロワー機能により、自社に関心の高い多数のユーザーにアプローチできるのがメリットです。
TikTokはZ世代への人材採用や求人に効果的
TikTokの国内の月間アクティブユーザー数は950万人。そのうち、10~20代の若者を中心に使用されています。投稿動画を見ても、学生服を着た爽やかなティーンエイジャーたちがダンスや歌を披露するケースが多くなっています。
つまり、Z世代を対象とした人材採用や求人を行う場合に、TikTokは大きな効力を発揮するということです。Z世代は1990年代中盤以降に生まれた世代で、仮に2000年生まれであれば現在の年齢は21歳となります。
会社を知ってもらうところから
TikTokでは、いきなり人材採用や求人用の動画を投稿しても情報が広まりません。企業側のメリットや強みを一方的に訴求するような動画は、TikTokでは敬遠されやすいからです。そのため、まずはユーザーとの関係性を構築したうえで、信頼を獲得しなければなりません。
後述する事例でも詳しくお伝えしていますが、TikTokで採用マーケティングに成功している企業は、いずれもまず「会社を知ってもらう」ところからアプローチを始めています。
TikTokを利用するユーザーはあくまで動画を楽しみに来ているのであり、就職や転職活動のためにアプリを利用するわけではありません。そこでユーザーにとって価値のある情報やユニークなコンテンツで会社の存在を知ってもらい、継続して接点を作った後、彼らが望むタイミングで初めて自社の紹介や強みをアピールするのが効果的です。
TikTokの企業の動画事例
では次に、TikTokを活用して人材採用や求人を行う企業の事例をご紹介します。実際に行われた採用マーケティングの方法を知っておくことで、自社動画を制作する際に大いに参考になるはずです。
事例①ユニークな動画でまずは自社の存在を知ってもらう
新宿区に本社を構える警備会社、大京警備保障は積極的にTIkTokを活用しています。
警備会社の多くは慢性的な人手不足が続いており、コロナ禍の現在は有効求人倍率が99倍にものぼります。そのうえ大京警備保障で働く社員の平均年齢は50歳を超えており、いかに若い人に自社の魅力を伝えられるかが一つの課題でした。
しかし警備会社はBtoB企業だけあり、なかなか若い求職者に複雑な業界の仕組みや働き方を理解してもらうのは簡単ではありません。そのため大京警備保障は、若い人に警備業界の魅力を伝えるためにTIkTokの活用を決意しました。
実際に投稿されている動画は以下のようなものです。
(https://www.tiktok.com/@dkykeibi_tokyo/video/7014406975324818689?is_from_webapp=v1)
動画にはよく社長や部長、教育長が登場し、若者が躍るようなダンスをぎこちなく踊る姿や、ときにはプリクラに挑戦するなどユニークなコンテンツが投稿されています。YouTubeでよくある「企業紹介動画」とはまったく異なる切り口で、TikTokユーザーとの関係性を深めている点が特徴です。
コンセプトは、「まず弊社のことを多くの若者に知ってもらうこと」にあります。積極的に「わが社に入社してください」とアピールするのではなく、会社や上司の雰囲気を知ってもらうことで、TikTokを見て同社を知り応募をした12名のエントリーを獲得しました。
これまで数十万~数百万円かけて求人広告をかけていたものの、TikTokの採用マーケティングはほとんどコストがかかっていません。
参考:TikTok For Business
【大京警備保障 公式アカウント】
https://www.tiktok.com/@dkykeibi_tokyo
事例②紙芝居の採用動画が受けて2万回の再生数を獲得
従業員の健康管理クラウドサービスを展開するiCAREも、大京警備保障と同様にTikTokを活用したユニークな人材採用や求人を行っています。
iCAREはこれまで、WantedlyやGreenといった採用媒体を使って求人を行っていました。しかし零細企業同然のスタットアップであるiCAREだけに、大企業や有名会社がしのぎを削る同じ土俵で戦っても求職者の候補企業に入れてもらうことすらできません。
そこで、求職者の要望をフルに叶えるようなマーケットイン型の手法を排し、あえて「自分たちがやりたいようにやる」というプロダクトアウト型の人材採用を思案。それを行うプラットフォームとして、TikTokが最適であると判断しました。
まずは第一弾として、紙芝居風の採用動画を投稿。
【採用TikTokerなかの 第1弾】
iCARE社では事業拡大に伴って、採用戦線がパラレル大回転中ですが、国家総動員法を発令して全員採用に取りかかっても依然として苦しゅう状況です。
困り果てた結果、中野雄介に残された道はTikTokで踊り狂うことで全力の採用アピールをするしかないことに気づきました pic.twitter.com/Y4Qhzia7Tl
— 中野雄介|iCARE社のChief REIWA Officer (@y0uth_K) August 16, 2018
バック音楽にDA PUMPのU.S.Aを乗せ、紙芝居に載せて自社の紹介を行うというユニークな内容です。インパクトが求められるTikTokで大きな話題となり、この動画だけで2万回以上の再生回数を叩き出しています。
その後、全4回の動画公開を通して、最終的には総再生回数5万回以上の結果を残しました。広告のように大々的な費用をかけずとも瞬く間に知名度を高め、採用活動だけではなくブランディングにも効果があったと言います。
参考:note 中野雄介の「雄叫び」
TikTok用のコンテンツを制作する際のポイント
今度は先述した事例を基に、TikTok用のコンテンツを制作する際のポイントを解説します。
TikTokではユーザーが楽しめるコンテンツが最優先
先に紹介した事例では、いずれの企業も「是非ともわが社に入社してください」というような積極的な会社の売り込みは行っていません。それよりもユーザーが動画を視聴して楽しめるようなコンテンツを意識しています。それはTikTokのプラットフォーム自体がユーザーが楽しむための場所だからです。
たとえば、もしあなたが面白い動画を見るためにTikTokにアクセスしたとき、いきなり「わが社の魅力は○○です」や「エントリーページはこちらから」というようなおすすめ動画を紹介されたらどう思うでしょうか。おそらく多くの人は「うっとうしい」と感じるか、「場違いな動画だな」と思って画面をスワイプしてしまうでしょう。
もちろん自社サイトの採用ページや求人サイトにアクセスするようなユーザーであれば、積極的に自社の魅力を訴えかけるのは大切です。しかし、TikTokにアクセスするユーザーは楽しむことが主な目的なので、TPOに合わないコンテンツを発信しないよう注意しなければなりません。
人気のコンテンツと人材採用の情報を組み合わせる
とはいえ、面白いコンテンツばかり作っていれば人材採用に結び付くわけではありません。面白い動画でユーザーとの結び付きを強化した後、今度は自社の目的が達成できるような工夫が必要です。
そのためには、TikTokで人気のあるコンテンツと人材採用の情報を組み合わせましょう。
たとえばTikTokで大きな盛り上がりを見せているテーマに「ダンス」があります。そこで自社のスタッフを動画に出演させ、話題のダンスを披露することで大きな注目を浴びる可能性が出てきます。それが社長や部長といった硬い印象がある人ほど、無邪気に踊っている姿を見ると、ギャップによる効果で親しみを覚えるものです。
結果、「将来、自分の上に立つ人がこうしたユニークな人なら面白いかも」とユーザーが感じてくれるかもしれません。社員のユニークな姿を紹介する動画が増えるほど、徐々にユーザーが自社に興味を持ち、人材採用や求人にも好影響を与えるでしょう。
ターゲットを絞り込みペルソナを考案する
TikTokの人材採用では面白いコンテンツを企画することも大切ですが、「誰に情報を伝えたいか」という点も忘れてはいけません。ターゲットとコンテンツの内容は表裏一体の関係として捉えましょう。
先述の通り、TikTokの利用者は10~20代が中心です。ただ、同じ世代でもIT業界に興味がある人もいれば、小売や物づくりに興味を示す人もいます。そのため、ユーザーのデモグラフィックや興味関心などを細かく絞り込んだペルソナを構築することが重要です。
ペルソナを設定する際には、年齢や性別以外に住んでいる地域や家族構成、学生なら学校名や学科、会社員なら勤務先や職種、ほかにも趣味や友人との付き合い方などを考えていきます。より細かくターゲット像を絞り込むほうが、そのペルソナに合うコンテンツを企画しやすくなります。
コンバージョンにつながる導線をつなぐ
ユーザーが企業に興味を持ち、その会社に問い合わせやエントリーをしたいと思っても、肝心の質問ページやエントリーページのアクセス方法が分からなければ行動を起こしようがありません。そのため、TikTokから採用ページや求人サイトにつながる導線を確保しておきましょう。
TikTokでは、アカウントページに任意のURLやSNSアカウントのリンクを掲載できます。また、各動画ページにもリンクを掲載できるため、動画内で採用ページや求人サイトへのアクセス方法を伝えるのも効果的です。
ショートムービーのみで訴求するのが難しい場合には、TikTokにダイジェスト動画を掲載し、YouTubeにアクセスを促して詳細動画を見てもらうのも良いでしょう。YouTubeやSNSなど複数のチャネルを経由させる場合は、各チャネルの強みを生かせるように導線を設定するのがポイントです。
TikTok Resumesのパイロットプログラム開始!採用活動の幅が広がるかも
TikTokを運営するByteDanceは2021年7月7日、求人企業と求職ユーザーを結び付ける「TikTok Resumes」のパイロットプログラムを立ち上げました。
参考:ITmedia NEWS
TikTok Resumesとは、求職者が履歴書(Resumes/レジュメ)の代わりに自分の経歴や自己紹介が分かる動画を投稿し、求人企業にアピールできる機能です。このプログラムは米国でのみ公開され、TargetやShopifyといった有名企業が参加しました。
パイロットプログラムなので、現在のところはどのようにサービスが提供されるのか詳しい部分は分かっていません。また、日本でも同様のサービスが提供されるのかも不明です。
しかし、ByteDanceが自社プラットフォームを活用し、企業の人材採用や求職者の求職活動をサポートしようとする姿勢が垣間見えます。このプログラムがどう転ぶにせよ、TikTokで人材採用や求人の仕組みが一新される可能性は高いと言えるでしょう。
そのため、いまのうちにTikTokを活用して採用マーケティングの礎を築いておくのは非常に重要なことです。将来、企業の採用動画を見て、TikTokから直接エントリーを行うシステムが生まれても何ら不思議ではないためです。
先のことを見据え、採用動画のコンテンツを拡充させておくことは大きなメリットになり得ます。
弊社では動画の制作や運用を行っています。TikTokの活用に興味のある企業はぜひお問い合わせください。